枝折の径に花の萌ゆ

新人作家・中村汐里による雑記。

沈丁花が終わった

近所に沈丁花を植えているお宅がある。

4月下旬の頃は、通りかかるといい香りがしていて心を和ませてもらっていた。

特に風のない深夜がよかった。行き交う通行人や車がほとんどない時間帯に、その場に立ち込める花の艶やかな香りを密かに楽しむのが好きだった。

深夜にコンビニに行く道中にあるその家の前で、こっそりマスクを外して香りを吸い込んでは春を感じていた。

 

今日の夕方に通ったときは、もう沈丁花の香りはなくなっていた。

どこかほかの家から漂ってくる煮物の匂いにかき消されたのか、本当に花が終わっていたのか、どちらにせよ花の姿は感じられなかった。

季節の移ろいを知りつつ、物寂しい気分になった。

 

旬が過ぎた花を、何か月も恋しく思い続けることは少ないだろう。

けれど次に季節が巡ってくるまで、香りも花もなくとも思い出す人はいるかもしれない。

私はそのクチだ。咲かない時期でも満開の時期を想ってその場所を通り抜ける。

そうやって待っていてもらえる者の存在が、作家としての私にもいてもらえたらどれほど嬉しいかと考えたこともある。

まだ一作出したきりでこの先のことはなにもわからないし、期待してくれている人がいるかもわからないが、また次につながるよう頑張っていけたらとは思っている。

いま書きたい話のプロットは3本ある。

形にしたいな、という願望ではなく、形にするんだ!という意志で書いていきたいと思う。