「ワイルド」と「ハウスキーピング」の関係から見えるもの
先日、息子がトーストに豪快にかぶりつき、パンくずが盛大にまき散らされた。
その様子を見て、後片付けが面倒だなどと感じている最中にふとした考えがよぎった。
ワイルドな振る舞いと家事の相性は基本的にすこぶる悪い、と。
当たり前のことだろうとは思いつつ、両者を直結させて考えることはそれまでなかった。それが、突然繋がった。
瞬間的にその考えに至った経緯を話す前に「ワイルド」の定義について書き留めておこう。
ワイルドとは。
1.野生であるさま。自然のままであるさま。
2.荒々しく力強いさま。
(デジタル大辞泉より)
ということだ。
それでは家庭内で見られるワイルドな行動を挙げてみる。
・靴下を脱ぎ捨ててほったらかしにしておく(洗濯カゴに入れてほしい)
・骨付き肉を持って油がついた指を服で拭う(ティッシュで拭いてほしい)
・調味料がついたままの皿をそのままシンクに出す(水を張らない)
・筋肉自慢対決でシャツを破る(『天空の城ラピュタ』のワンシーンより)
……などなど、探せばいくらでも見つかる。
ラピュタの例はレアケースだが、シャツを破いた親方の奥さんによる「誰がそのシャツを縫うんだい」というセリフからもわかる通り、ワイルドであるがゆえの面倒が生じているのだ。
前述したトーストのパンくずもそのひとつ。ダイナミックに散らかさなければ片付けも楽なのに、という思考が至った先がこれだ。
このように、家庭内でのワイルドというのは往々にして「行儀が悪い」「だらしない」という点に尽きてしまう。
嘆かわしく思う主婦の方も多いだろう。私もそのひとりだ(どちらかと言えば私も散らかす側ではあるが)。
各自でやってくれたら済む部分を省略されることで、必要な家事や雑務が増えるのだ。「ひと手間のプロセスを踏んでくれさえすれば、そこに関わる家事は発生しない」
その点において考えると、ワイルドとハウスキーピングの相性は非常に悪くなる。
行儀よくしてほしいな、と思う母親(主に)の心理の根幹はここにあるような気がする。
それでは、この関係性を別の角度から考えてみたい。
家事をする側の者としては、面倒を増やさないでほしい=ワイルドでいられたくない=行儀良くしていてほしい となる。ハウスキーピングは家内の清潔や秩序を保つために行うものだからだ。
もうひとつ踏み込んでみる。なぜ家の中を綺麗にしておきたいのか。
おそらく、快適な生活を維持するため、というのがもっとも大きな理由ではないだろうか。
そしてその先に見えてくるのは「精神衛生の確保」になる。家の中が整っている、汚れていない……といった環境があることで、家族は安心して日々を暮らせるのだ。
ここでひとつ問題が生じる。
家人がワイルドであればあるほど、気持ちよく過ごすために必要不可欠なハウスキーピングを主に行う張本人のフラストレーションが溜まってしまうのだ。
気持ちよく過ごす環境づくりに勤しめば勤しむほどストレスになる悪循環を断ち切る必要があるが、それが難しい。喧嘩になってしまうケースも多いことだろう。
これはもう、各自で処理してもらうしかない。だが「自分で片付けなさい」と言ったことがない主婦・主夫はいないだろうし、二回以上その言葉を口にせずに済んでいる人もおそらく存在しないはずだ。
そう、何度言っても直らないのだ。だってワイルドだから。
どちらかというとワイルド志向の私が思いついた解決方法は二つのパターンだ。
ひとつは「折り合いをつける」こと。
とにかく綺麗にしておかなくちゃ、と神経質になりすぎてしまうと、ちょっとの散らかりが目について仕方なくなってしまう。そのことを指摘し、家族間の雰囲気が少しピリピリしてしまうケースも少なくはない。
そうなると、家庭内が却って落ち着かない場所になってしまわないとも限らない。心が休まらないのでは本末転倒だ。
きっとワイルドな家族は、ちょっとくらい汚しても片付けてくれる人がいるもんね~と安心して奔放に過ごせているのかもしれない。
そんな安心感があるからこそ、ワイルドに――細部に気を配らない甘えた振る舞いになるのだ。そう考えれば可愛いものかもしれない。
どうしても目を瞑れない部分にはきちんと手を入れるとして、多少は大目に見ることも肝要なのだろうと思う。
もちろん、自分で片付けてもらうための声かけはし続けなくてはならないだろうし、それが一番面倒なのだが――
もうひとつは「開き直って自分もワイルドになる」こと。
どんなにだらしなくても、手や口の周りをでろでろにしながら食べる骨付きローストチキンのおいしさを知ることも有意義なものだと私は思う。
うっかり服につけられても、どうせ洗うんだからちょっとくらいいいや!の精神で見逃してもバチは当たらない(よほどいい服なら話は別だが)。
パンくずが散らかったって、シミにはならないからね!くらいの気持ちでいたらいい(掃除機は必要だが)。
ピカピカな家をキープする努力が報われないと思ったときは、逆にワイルドなメンタリティでいられることをハッピーに捉えてゆるく過ごしてしまうのもいいかもしれない。
でも、もし旦那が見栄を張ってシャツを破って帰ってきたら私は怒るだろうな。